夢占い/ホラー小説
■とある日にみた夢
私の夢に現れた男は、じっと私を見ているだけだった。
私を見ている男は、猫を抱いていた。
子猫だ。
とてもとても可愛らしい、茶色い毛色の子猫。
他にもいた。
足元には三毛、白、グレー……3,4匹の子猫がかわいらしい鳴き声で私を見る男の足をガリガリと引っ掻いている。
厚手のジーンズのようで、引っ掻かれても痛くはなさそうだ。
子猫たちは私を癒すが、私を見るその男は全く会ったことのない見知らぬ男。
それがじっと私ばかりを見ているので、恐ろしかった。
私は、この夢を週に一度は見る。
■夢占い
その夢を見た日は、決まって体がだるく重かった。
会社に行く足取りも重く、私を無気力にさせる。
少しは慣れたものの、それでもその夢を見た朝はその日一日を予告されたようで、私の気分を削いだ。
ストッキングを履き、スーツを着込む。
会社に向かう電車の中で、繰り返し見るあの夢を思った。
――一体、あの男はなんなのだろう。
想いを巡らせるものの、やはり心当たりはない。
通勤電車、カバンからスマホを取り出すと『夢』と検索ワードを入れてみた。
【夢占い】
少しスクロールさせていくとそんなワードに引っかかった。
――夢占い? そういえば一時期流行ったような……
私は夢占いと書かれたHPを開く。
なんの変哲もない明るい色がふんだんに使われたHPが現れた。
なんの気もなしに、【ENTER】のボタンをタップすると、質問が現れた。
【あなたは見た夢を覚えていますか?】
――夢占いっていうんだから、覚えてなきゃ占えないでしょって。
一人でそのように突っ込みながら、私は次々と質問に答えてゆく。
【あなたの夢には人が出てきましたか?】
【夢の中の色は何色】
【乗り物はでてきましたか?】
【なにか道具が出てきましたか】
【出会った人は知っている人ですか】
【動物は?】
……それぞれの質問には1から4までの選択肢があり、その中から選ぶ。
動物についての質問でネコという解答があったのでそれを選ぶ。
知っている人かという質問に関しても全く知らない人を選んだ。
■占い結果
約20問にも及ぶ質問に回答すると、【あなたの占い結果は】という結果が表れた。
興味深く、だけど好奇心に心を躍らせながら目で追ってゆく。
【占い結果】
夢の中で出会った姿と大分違いますね。
いつもお会いするときは、ただ私を見詰めるばかりでなにも喋らないですし、会話をしたことはありませんね。
次に夢でお会いするときが楽しみです。
ようやく私の存在を認識したということですよね。
夢の中でしかお会いできませんでしたので、現実に認識していただいたのは本当にうれしいです。
では、今夜もまた5匹の猫と一緒に会いに行きます。
それと、一つ忠告しておきますが私を見ても逃げてはいけません。
これまでは逃げずに見ていてくれましたが、今後はお会いしても逃げてはだめですよ。
ええ、ダメです。
■恐ろしい夜
会社に着いた私は上司から顔色の悪さを指摘された。
無理もない、あんな占い結果を見せつけられては気分も悪くなる。
「今日は帰っていいよ」
心配した上司にそういわれたものの、仕事でもしていないと夢占いとあの男のことが頭をよぎってしまう。
だから私は早退を断り、無心で仕事をこなした。
『今夜もまた5匹の猫と一緒に会いに行きます』
占い結果は明らかにおかしかった。
電車の中で、私は思わず悲鳴を上げてしまい痴漢の被害に遭ったのかと周りの乗客に心配されたが、必死に弁明して降車したのだ。
――占いの結果でもなんでもない。あれは私に話し掛けてくるような文だった。……しかも、まるであの男が話し掛けてきているような……。
また考えてしまっている。
私は無用なことを考えないように仕事に打ち込んだ。
これほどまでに夜が来るのが恐ろしいとは思わなかった。
私の頭の中は、今夜を如何にして眠らずに過ごすか。そればかりだ。
あの男が今夜来る?
冗談じゃない……しかも、向こうは私を分かっているの?
だけど、無情にも夜はいつも通りやってきた。
■眠れない闇
これだけ生きていれば、オールのひとつやふたつくらい経験がある。
一晩くらいは問題ない。
だけどずっと眠らない……なんてことはできそうにもなかった。
会社から帰った私はベッドの横で眠気覚ましのドリンクをテーブルに並べ、ひたすらテレビを見た。
深夜4時を過ぎ、もうすぐ夜が終わろうとする頃、私はもうじき訪れる朝に安堵の溜息を吐いた。
幸い、睡魔も無かった。
もうすぐとりあえずは一日が終わる。
――良かった。
私がそう思った時だった。
ガチャリ
ドアの開く音に驚き、玄関へ続くドアを反射的に振り向く。
「……!」
――開いている!
「今夜会いに来るって言ったじゃないですか」
知らない声。そして、その声にまとわりつくような猫の鳴き声。
「あ……あ……」
夢の男が現れた。
「なん、で……」
「あれ? もしかしてこっちが夢だとは思ってなかった系ですか?」
「たすけ……」
たすけての「て」を言う前に、私の口になにかが押し込まれ息苦しくなった。
「早く逃げなきゃ! 早く逃げなきゃ!」
次々と口に押し込められる。唇が裂け、それでも無理矢理詰め込まれる。
何が詰め込まれているのかなど、この状況では私は考えられなかったが、男の肩に乗っている子猫の頭がないことだけは見えた。
「もごご……がばっ! あっ」
遠くで聞こえる声。
「……あ、やっぱこっち夢じゃなかった」
ワケガ、ワカラナイ。
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