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変顔 / ホラー小説

公開日: : 最終更新日:2015/02/15 おもうこと, ショート連載

変顔

■これは誰の顔?

 

 

 

朝起きて、洗面所の前に立つ。鏡には俺。

 

 

俺の顔は、今日も疲れている。

 

 

そういえば機能も残業だったもんなぁ……。

 

 

パソコンの前で噛り付き、慣れない入力。

 

 

俺達外回りが事務所でパソコンをコツコツやるのは、やっぱり無理があるだろー……。

 

 

思えば昨日帰ったのも、終電様。

 

 

シャワーを浴びてビールを飲んで、寝る頃にもなると深夜を回っていた。

 

 

そして起きたのは6時半……。

 

 

一体なんのために働いているのかわからなくなってしまう。

 

 

今日もどうせ帰るのは午前様だろうな。

 

 

考えるだけで吐き気がしてきた。

 

 

「考えていても仕方がない。とりあえず週末までがんばろう」

 

 

鏡に映る自分を励ますと、冷たい水で顔を洗った。

 

 

「……?」

 

 

――俺、こんな顔だったっけ。

 

 

自分の顔を見ていると、ふと不安になった。

 

 

毎日見ているからか、自分の顔がこんなだったか自信が無くなる。

 

 

「……疲れすぎてやつれてるってことか」

 

 

シェーバーで髭を剃ると、やつれた顔の俺は今日も会社に向かった。

 

 

 

■妙な顔

 

 

 

会社に着くと、暴虐無人な振る舞いで有名な上司がまた、山の様に仕事を押し付けてきた。

 

 

「悪いな。ここのところ仕事が詰まっているが、無理するんじゃないぞ」

 

 

笑顔で上司はそう言ったが、内心は違う。

 

 

昨今のパワハラ問題を気にして、言葉にこそ気を付けているが、持ち寄られた仕事をこなせなかった場合、笑顔でまたそれ相当の仕事を持ってくる。

 

 

それはいつか減るなどということもなく、無尽蔵なほどに毎日毎日上乗せされ、少しでも休もうものなら目も当てられないような山になってしまうのだ。

 

 

笑顔で人当たりもよく、喋り方も丁寧だが、表情も変えずにこんなことをやってのけるからこの男は暴虐無人だと影の通り名を密やかにささやかれる。

 

 

素行がまともなぶん、コンプアライアンスにも通報できない。

 

 

「顔色が悪いな。残業なんてしなくてもいいんだぞ? 有給、とるか」

 

 

「いえ……大丈夫です。ありがとうございます」

 

 

前に一度、同僚の奴がこの優しい言葉に乗って休んだことがあった。

 

 

リフレッシュした様子で復職したそいつの目の前には、スカイツリーのように高く積み上げられた書類。

 

 

その日の晩、泣きながら一人で残るそいつを見た時、この男の恐ろしさを知ったのだ。

 

 

「おい、伊藤」

 

 

「はい?」

 

 

これ以上仕事が山積するのを回避したい俺は、デスクに戻ろうとした。

 

 

それを上司が呼び止めたのだ。

 

 

「お前、そんな顔だったか」

 

 

 

■周囲にも判別できない顔

 

 

 

なんの冗談かと苦笑いで会釈をすると、上司はそれ以上なにも言わず掌を縦にして「すまない」のサインで俺を見送った。

 

 

「なんなんだよ」

 

 

首を傾げてデスクに戻ろうとする俺に同じオフィスの仲間が「おい、なに言われたんだよ」と話しかけてきた。

 

 

「え? ああ、疲れてるなら休んでゆっくりしてもいいってさ」

 

 

「うげ。怖い言葉だな、……いや、意外と本心かもしれないぜ? 休んでみたら」

 

 

「どうなるか目に見えてるだろっての」

 

 

首の後ろを描きながらそいつが俺をどんな愉快そうに見上げているのか見てやろうと、椅子に座った低い顔を見下ろす。

 

 

「……ん?」

 

 

「なんだよ」

 

 

「いや、お前……そんな顔だったか」

 

 

「なんだよお前までよー! 気持ち悪いって」

 

 

そいつの手を払うと俺は自分のデスクに戻ると山積された種類の一枚を取る。

 

 

――全く、どいつもこいつもよ……。

 

 

俺自身が気持ち悪くなった顔を、寄ってたかって指されると、なんだか仕事がしにくくなる。

 

 

個性的というほどではないが、指を差されるほど特徴的ではないはずだ。

 

 

周囲の悪ふざけのおかげで、俺はすっかり機嫌が悪くなった。

 

 

 

■本当は誰か

 

 

 

日中の外回り。ストレス発散とばかりに昼食は贅沢に食べる。

 

 

今日は天丼に冷たいそばをつけてやった。

 

 

ここのところ油ものばかり食べている気がするけれど、溜まっているストレスのせいで食欲や偏食が止まらない。

 

 

……やっぱりそろそろこの会社も辞め時かな。

 

 

と思っても、辞めたところで行くあてもなければしばらくのんびりできるほどの貯えもない。

 

 

結局のところ、働かなければならないということだ。

 

 

溜息を深めについて、デパートを横切った。

 

 

「……?」

 

 

ブランドショップの展示商品。それをディスプレイするガラスに俺の姿が反射した。

 

 

「……」

 

 

見慣れているはずの顔だったが、どこからどう見ても誰かわからない。

 

 

――これは一体誰だ。

 

 

ガラスに近づいてマジマジと見詰めてみると、ますますこれが自分の顔ではないような気がする。

 

 

次第に、それはぷつぷつと毛穴を広げ、全身に鳥肌を立てて行った。

 

 

「……」

 

 

すでに俺は言葉を発することすら恐ろしくなってしまっていた。

 

 

――もしも、この声が全く知らない声だったら?

 

 

脂汗が目に入る。

 

 

目が染みたが、俺はこの目を閉じることが出来なかった。

 

 

なぜなら、俺はこんなにぎょろりとした目ではないから。

 

 

細目でややたれ目、滅多に汗なんて目に入らない体質だったはず……。

 

 

『お前、そんな顔だったか?』

 

 

『いや、……お前、そんな顔だったか?』

 

 

上司と同僚の声が頭の中でカンカンと跳ね返っては、脳内を駆けまわる。

 

 

「ぃ、ぃぃ……」

 

 

やがてそれは俺のなかで確信となり、その瞬間とある疑問にぶつかる。

 

 

これが他人の顔だとしたら……

 

 

「俺の顔はどこだ!」

 

 

 

 

 

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お見舞い

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