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嗤う旅山梨・奇病との百年記!蛍の消えた里 杉浦醫院 その1

公開日: : 最終更新日:2025/11/30 おもうこと, 嗤う旅, 雑記 , , , , , , ,

■地方病の歴史

水腫膨満

茶碗のかけら

これは幕末の時代、甲府盆地に住まう人々の間で生まれたことわざである。

『腹が膨れたら、割れた茶碗のようにもう助からない』、簡単に言うとこんな意味だ。

このことわざからは、かつての住民たちの絶望がうかがい知れる。

100年以上も昔……いや、100年くらいならまだ昔とはいえないくらいの過去。甲府盆地には未知の奇病が蔓延していた。

のちに【日本住血吸虫症】と名付けられた感染症である。

この名自体が広く知られているというわけではないが、【地方病】と聞けばうなずく世代は多い。山梨県における【地方病】といえばそれだけ有名だった。

本項冒頭に記したことわざは、この地方病に罹患した者を憂いたものだ。避けられようのない死を嘆き、ただ家族が、大事な人が逝くのを待つしかない。手の施しようのない不治の病だった。

死の病。それが住民たちの間での共通した認識だった。そして、その死の病は、決して他人事ではない。むしろ、いつ自分にお鉢が回ってくるかわからず、諦めと恐怖の狭間でみんな怯えていたのだ。

罹患した者はやがて皮膚が黄色く変色し、体は痩せ細った。そして、腹水により腹部がパンパンに腫れ、人によっては痙攣や麻痺を伴い、失語症など会話すらままならない。脳疾患を発症するケースだ。そうして、ひとりで動くこともできずに死に至る。

そんな怖ろしい症状を引き起こす病は、大人だけではなく子供にも多く発症した。

年場も行かない幼い子供が太鼓腹になり、呻きながら死ぬ。生き永らえても、発育障害を起こし140センチほどで身長が止まったまま大人になった。

罹れば重篤な後遺症に悩まされることも少なくないこの不治の奇病の感染経路はわからない。ただひとつ、住民たちの肌感覚でわかっていることがあった。

〝川に入ったら、病にかかる〟

■杉浦醫院

どうも最東です。

2022年に上梓した『この場所、何かがおかしい』の関東方面への取材旅で一番最初に訪れたのが山梨県の杉浦醫院でした。

本には収録していませんが、収録取材先以外にも「いけるところは行っておきたい」ということで前々から気になっていた杉浦醫院を訪れました。

私自身、実は杉浦醫院についてはあまり知らず、『地方病という感染症の専門病院跡地である』というふわっとした認識しかありませんでした。

杉浦醫院は山梨県昭和町にひっそりと佇む、昔ながらの日本建築の医院です。お屋敷と一緒になっていて、当時から裕福であったことが窺える立派なお屋敷でした。

その時、来館していたのは最東ひとりでした。

三和土から声をかけると奥から代表の男性が姿を現し、大阪から来たことを伝えると労いの言葉をかけて歓迎してくれました。

そうして入館料を支払い(たったの200円!)、中を見学させてもらうことに。

代表の男性はガイドとして、杉浦醫院と日本住血吸虫との戦いの歴史について事細かに解説してくれました。そこで最東ははじめて、この施設がどのような場所なのか、地方病とはなんなのかをしっかりと知ることとなります。

そして、この経験は忘れられないものとなりました。

杉浦醫院で聞き知った甲府盆地の人々と地方病との戦いの歴史が、語弊を恐れずにいうと、あまりにもドラマチックだったからです。

ですが、ドラマチックなんて言葉だけでは言い表せない、悲劇が歴史の中にはあります。たくさんの死が、そこにありました。

■蛍の里

笛吹川には【蛍見橋】という橋がある。

その名の通り、この橋からは夜空を照らすかのような無数の源氏蛍を楽しむことができました。

甲府盆地は特に南アルプスから流れつく清らかな水や、豊かな自然は蛍が棲むのに適した環境だったのです。

ですが、現在は無数の源氏蛍が舞う幻想的な絶景は見ることは叶いません。この地から蛍がほとんどいなくなってしまったのです。

まさにそれが、日本住血吸虫との戦いの傷跡となりました。

山梨県の甲府盆地、わかるひとが訪れるとその風景に驚くといいます。なぜなえら、『自然の川が一切ない』からです。どの水田もセメント作りで、自然豊かに流るる川を思い描いていると面食らうことになります。

一帯から蛍が姿を消してしまった一番の理由はここにありました。

自然の川がなくなってしまったから、蛍が生息するに適した環境が失われてしまったのです。

話は変わりますが、私の友人が以前山梨に転勤になった際、同僚にこんなことを言われたそうです。

「山梨に行ったら、川に入るなよ」

先述のように、川に入るもなにも自然の川がないから叶わないわけですが、こんな風評がいまだに言われるくらいに地方病は有名だったと言えます。

もちろん、現在はそんな心配はありません。どの川に入ったからと言って、どうということはないのです。友人の同僚が言ったことは、完全に誤った認識であり、間違っています。

それでも、かつてはそんな風に言われていた時代があったということです。

ここまでくるともうお察しでしょう。

地方病こと日本住血吸虫症の感染経路は、川です。川に入ると、水から寄生虫が入り込み、感染するのです。

怪紀行山梨・奇病との百年記!蛍の消えた里 杉浦醫院 その2へつづく

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