戦跡を訪ねる【大阪・護国神社】
■東の靖国、西の護国
日本の国民なら、なにかと話題になりがちな靖国神社はご存知かと思います。
実際に行ったことがなくとも、太平洋戦争時に戦死した『英霊』を祀る場所だということを知る人は多いのではないでしょうか。
わたしも何度か訪れたことがあります。
本殿までの長い参道を往き、辿り着いた先にある荘厳な神殿。
敷地内には『遊就館』という戦争資料館があります。
この戦争資料館に関しても、興味深い施設ですがやはり賛否があるようです。(戦争美化という声が多数寄せられていると聞きます)
私ごときが、靖国神社や遊就館の在り方を語る口を持ちませんが事実として、戦没者を祀っている神社が存在しているのです。
国のために、家族のために戦って散った兵士たちの魂が安らかに眠るこういった神社が、靖国神社だけではない、ということをご存じでしょうか。
考えてみれば至極当然でありながら、そのことに考えが至らなかったのはこの靖国神社が群を抜いて有名で、話題に上りやすいからにほかなりません。
私は関西に住んでいますが、調べてみたところ大阪は住之江区にも『西の靖国』ともいえる神社がありました。
それが『大阪護国神社』です。
■ボートの音、静かな公園
護国神社は、住之江公園に隣接している大阪を代表する神社のひとつでもあります。
住之江公園は野球場にも使えるグラウンドやテニスコードもあり、週末は散歩客以外にも活気であふれる場所。
子供向け遊具が設置された公園もあり、市民の生活の中心にある場所なのだろうなと思いました。
護国神社、住之江公園の幹線道路を挟んで向かい側には住之江競艇場があります。
訪れたのは週末だったので、レース中だろうボートのモーター音が野獣の鳴き声を思わせる咆哮をあげていました。
行ってみた人でしか、ボートレースのモーター音があんなに大きな音だとわからないのではないでしょうか。
私はおそらく、初めて聞いたからかしばらくはその音がなんなのかわからず混乱しました。
静かな公園と、静かな境内にはおよそ不釣り合いのようにも思いましたが、これもこの場所の日常に違いありません。
そして、ボートのモーター音は別の意味でこの場所にこそ相応しいとあとあと知ることとなります。
■殉国の英霊 このところに鎮まる
正面鳥居をくぐると右手に大きな慰霊碑がみっつ、並んでいます。
木々を背に安らかに聳えるその姿は、戦争の烈しさはなく、今はただ静かに時を見守っている……そんな印象をおぼえました。
ひとつずつどんな意味をもつ慰霊碑なのかを見ていきます。
建立されたのはまだ若そうに思える、ピカピカの石碑はどれも太平洋戦争時の兵士たちを鎮めるものでした。
【軍馬・軍犬・軍鳩之碑】と刻まれた石碑もあり、兵士だけでなく戦争に利用された動物たちも一緒に鎮魂されていたのが印象的です。
大きなひとつ星の下に【慰霊】と刻まれた赤茶の石碑には、軍馬の像と銃剣のレリーフ、それに銃弾を模したモニュメントがありました。
兵士たちがこれらを用いて戦ったのは想像に難しくありませんが、魂を鎮めるのに武器は必要なのか、個人的には疑問に思います。
そして、慰霊碑の正面……つまり鳥居をはいって左手には陸海軍兵の慰霊碑軍がありました。
そこには名の通り、陸軍と海軍の戦没者の慰霊碑が立ち並んでいます。
ですが、慰霊碑の中には派手なものもあり、これが大阪らしさを醸し出していて失礼ながら面白かったです。
海軍の石碑には、軍艦の錨を模したモニュメントや、戦闘機のプロペラ、弾丸や翼を模したものまで、さまざまな趣向を凝らした形のものがありました。
鎮魂の意味ももちろんあるかと思いますが、このくらい賑やかなほうが戦死者たちも安眠できるかもしれませんね。
境内から本殿に向かって左側には親子の像、右側に特攻兵士の像がそれぞれありました。
一見、普通の神社に見えるこの【護国神社】ですが、ちゃんと見ればこの神社の在り方が見えてきます。
戦争に大義はありません。
ですが、そこに沢山の命が散ったという事実だけは明白です。
それをこれらの慰霊碑が証明していて、この人たちの命の上に今の自分がある。
武器を持たない国、日本。
たった100年もたたない昔に、空は火の雨を降らし、戦闘機のモーター音が昼夜問わず空を駆け巡っていたのです。
そして異国の空、異国の海、異国の地で命を燃やし、死んでいった兵士。
太平洋戦争での戦死者は実に310万人にも上り、その中で軍人の戦死者は230万人。
忘れてはいけない戦争があり、忘れてはいけない命が、確かにありました。
世界中が空と海で繋がっている以上、過去のことだからと言って現代を生きる私たちに無関係なことではない事実。
それを静かに、平和を見守りながら護国神社で眠る魂たちが物語っているようでした。
戦後70年が過ぎ、まもなく80年も見えてきそうな今。
もう一度、私たちは向き合うべきなのかもしれません。
学生の頃は、こんなこと考えなかったんですけどね。(笑)
仕方がありません。
なにせ、ここに眠る兵士たちはみんな私よりも若くして死んだのですから。
目を閉じないわけには、いかないのです。
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