はやく死んでくれればいいのに / ホラー小説
■瀬飛亜
私には5つ上の姉がいる。
姉は結婚していたが、数年前に離婚し一人娘の瀬飛亜(セピア)を引き取って新しい彼氏と暮らしていた。
そんな姉がまたも彼氏と別れ、住む家を出なければならなくなったため瀬飛亜をしばらく私の家で預かることになった。
姉はというと、すでに新しい彼氏がいるらしくしばらくそこで一緒に住むという。
それなのになぜ私のところに瀬飛亜を預けたのかと言うと、新しい彼氏は自分と一緒に住むことは承諾したものの、瀬飛亜まで一緒に住むことには拒否したらしい。
姉は彼氏と住みながら瀬飛亜と住む部屋を借りるための金を稼ぐから、それまでの間だけ瀬飛亜を預かってほしい……ということだ。
もちろん、そんな話は信用できないし独身ではあるけれど私も彼氏の大介と同棲をしている。そこに瀬飛亜を丸投げされても困るのだ。
「あんたがいなきゃ瀬飛亜が死んじゃうから! ね、お願い! 2カ月もあれば部屋を借りるくらいのお金溜まるとおもうから!」
肉親だからといってこれを渋々承諾したのがそもそもの原因だったようにも思う。
今になって私は承諾した過去の自分を呪った。
■2カ月
瀬飛亜は7歳になったばかりの女の子だ。ショートカットで活発に見えるが、前髪がなく髪留めもしていないので、いつも表情がよくわからない。
物静かでいつもヘッドフォンで音楽かなにかを聞いているので、他人との会話も進んですることは無かった。
一見して子供らしさのない……というのが正直な感想。
いつも俯いていて、部屋の端っこに座って漫画やゲームばかりをし、テレビもあまりみない。
気を使って私や大介が話し掛けたり、遊び相手をしてやろうともするがそれを受け入れることはなかった。
またよほど大音量で聴いているのか、私達の話はほとんど聞こえていない。
いつしか私たちも瀬飛亜に話し掛けることをやめた。
瀬飛亜はとっくに小学校に入っている歳だったけれど、学校どころか保育所や幼稚園にも行っていないと聞いていた。そのため人と話すことば拙いから、瀬飛亜は人と会話をしないのかとも思った。
いい加減で、男遊びが好きな姉のことだ。瀬飛亜を産んだものの、彼女の存在が疎ましかったのだろう。だからまともな愛を向けてこなかった。
それがこの可哀想な境遇なのだと思う。
だからといって、その被害を私が被るのもごめんだった。
大介も瀬飛亜について不満を漏らしていたし、私自身も瀬飛亜の存在がストレスになりはじめている。
ひとつ、大きな要因として姉が私と約束した『2カ月』の期間がとっくに過ぎているということ。
もうひとつは瀬飛亜自身の性格にもあったのだ。
■問題児
音信不通にも近いほど連絡がとりづらくなった姉。
彼女が新しい彼氏の元で生活を謳歌し、私からの連絡を無視しているのは容易に想像できたが、完全に音信不通になれば面倒なことになりかねない。恐らくそう思っているのだろう。
そういった無駄な知恵だけは悪い交友関係で学んでいるらしく、私からの連絡に対し5回に1度程度は応対する。
その度に姉は本当に悪いといった振りをしながら「もう少し待って」と私に懇願するのだ。
そんなたまに連絡のつく機会に姉が言っていた。
瀬飛亜は実はちゃんと小学校に通っていたらしい。
だが学校でたびたび問題を起こしていたのだという。
その問題というは大したことは無い。男子女子関わらずに暴力を振るうというものだ。
子供の暴力などたかが知れているし、怪我をしてもせいぜいすり傷やこぶを作るだけ。
瀬飛亜に関してもその程度だったらしい。
だけど問題は程度ではなく頻度だ。毎日、1日に何度もそんなことを冒す。クラスの男子たちは最初のほうは瀬飛亜にやりかえしもしていたらしいが、あまりも頻発にそういったことをやってのけるので、やりかえすことをやめてしまった。
そして教師にいいつけることを始めたので、この問題が明るみになったのだと言う。
姉は教師からの呼び出しに応じず、事情を聞いても子供の事だからと聞く耳を持たなかったらしい。
それを聞いて私は余計に気味が悪くなった。
懐く訳でもないあの少女をこの家に置いておくのが嫌だった。
■不満
「おいあの気持ち悪いガキ、いつまでいるんだよ」
「お姉ちゃんとまた連絡がとれなくて……ごめん」
「お前のせいじゃないって分かってるつもりだけど、俺も超ストレスなんだぞ。あんなかわいくもねぇ、クソガキ。かわいげもないし、俺自身もガキ嫌いなのになんのいやがらせだよ」
「ちょっと聞こえるって……」
大介の文句が瀬飛亜に聞こえることを恐れた私がそれを抑えるように言ったが、大介は悪びれる様子もなく「1日中ヘッドフォンでなにか聴いてて俺らの話なんか聴こえてねぇよ」と吐き捨てた。
「親が引き取りにこないってことは、死ねっていわれてるのと一緒だろ? なんか勝手にどっか行って勝手に死んでくれねぇかな。殺しが合法なら真っ先におれが殺してやるのによ」
「そこまでいわなくてもいいじゃん」
私が大介にそう言うも、大介は「お前も顔笑ってんじゃん」と笑う。
そう、私も瀬飛亜がいること自体がストレスで、彼女が邪魔だった。だから思わず笑ってしまったのだ。
「ほんと……死んでくれたらいいのに」
私は呟きながら部屋の隅っこで三角座りをして寝息を立てる瀬飛亜に近づいた。
瀬飛亜が寝ると安心する。彼女が寝た後でやっと私は大介と愛し合えるからだ。
そのためには隣の部屋の布団に連れていってやらなければならない。その手間もまた瀬飛亜への疎ましさに繋がる。
「大体、いつもなに聴いてるんだか」
瀬飛亜が耳にあてているヘッドフォンを起こさないように取ると私は好奇心と興味からそれに耳をあててみた。
「……え」
なんの音もしない。どういうことかわからなかったが、恐らく再生が終わっただけなのだろうとコードを手繰ってみる。
「……!?」
コードの先は千切れていて、どこにもつながっていない。
瀬飛亜のポケットを叩いてみるが、音楽プレイヤーのようなものはどこにもなかった。
それは、つまり……
「おい、なにしてんだよ。そのゴミをさっさとあっちにやれよ」
大介の声に私は冷や汗が出た。
「おばさん、私……なんにも【聴いてない】よ」
薄めを開けて私にだけ聴こえるようなトーンで瀬飛亜はいった。
彼女の言った【なんにも聴いてない】は、私達が瀬飛亜に向けていっていた言葉のことを言っているのか、それともヘッドフォンからなにも聴いていないと言っているのか、私にはわからない。
だけど、瀬飛亜が私に見せた悪意と敵意のこもった瞳と、それとはあまりにもアンバランスな笑顔に、これまで感じたことのない恐怖を感じた。
――来月、お姉ちゃんが瀬飛亜を迎えにこなかったら……殺そう。
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