パラレル・ジャーニー / ホラー小説
■当サービスへようこそ
いらっしゃいませ。パラレル・ジャーニーへようこそ。
本日は、当サービスをご利用頂きありがとうございます。
お客様は当サービスのご利用は初めてでしょうか?
かしこまりました。それでは当サービスについてご説明いたしますね。
このサービスは『パラレルワールドに旅行できる』独自のシステムを開発した弊社が運用するサービスとなっております。
パラレルワールドとは、並行世界とも申しまして私達が生きている同じ時間軸に存在する全く異なるもう一つの世界……とでも申しましょうか。
ですが、このパラレルワールド。
つまり並行世界というものは、一つではありません。世界は可能性の分だけ枝分かれしており、その全てに貴方と言う人間が存在しています。
……いえ、存在しているというと語弊がありますね。
全ての世界で一度は生を受けています。その後、その世界に於いて事故・事件・病気など色々な事象で死んだ後……という未来もありえるのです。
魂の起源ですとか、その魂とはなんのか。生命の謎……。
これらは昔から今日に至るまで、人類永遠のテーマだとされてきました。
死の先になにがあるのか……とも。
皆さんのご存知の言葉でご説明いたしますと、謂わばリーインカーネーション……輪廻転生と呼ばれるものでございます。
……え、ご存知でない?
大変失礼いたしました。もっと噛み砕いて申しますと、生まれ変わりの概念のことでございます。
パラレルワールドの存在が確認されてからは、死んだ魂は次の世界でやり直し、死ねばまた他の世界で……というわけで、ずっと『自分の中の世界』を行ったり来たりを繰り返しているのでは、という学説が生まれたのです。
この仮説に夢があると思われるか、そうでないのかというのはどうぞお客様それぞれでご判断ください。
少々話が脱線いたしましたが、当サービスはこの世界以外の世界である『パラレルワールド』を探訪できるというサービスでございます。
先ほども申し訳上げました通り、他の世界でのお客様が存命かどうかは分かりませんが他の世界の住人であるお客様が元々関係のない世界に行くわけですから、世界の均衡が崩れる可能性がございます。
いえ、お客様がどのようなことをその世界でしたとしても、影響があるのはその世界でのことでございます。
お客様の世界に帰られた際になにか影響があるということはございません。
はい? タイムパラドックスですか?
なるほど、時間軸から派生した世界なのか? ということですね。
確かに、仰る通りでございます。
あらゆる世界がございまして、世界によっては選択を誤り滅んでしまった世界もございます。
しかし、それも並行世界のひとつ。同時に戦争のない世界もございますし。
戦争のない世界はさぞ素晴らしい世界なのだろう……ですか。
答えはNOとコメントしておきましょう。人類は戦争が無くなったところで平和になりませんでした。むしろ悪い方向に進んでいるといってもいいでしょう。
確かめたければ、その世界へ行きたいですか? 可能ですよ。
あ、いえ。
あくまでパラレルワールドを行き来するサービスですので、過去に戻るや、未来に行くと言った時間旅行とは趣が異なります。
如何でしょうか。ご理解頂きましたでしょうか。
それでは、パラレルジャーニーに参りたいと思います。そちらのシートにおかけになり、ヘッドセットを装着ください。
それでは旅立ちの前に注意事項をふたつ申し上げます。
ひとつは、その世界の人間に他の世界から来ていると悟られないこと。
もうひとつは、その世界の自分を殺さないこと。
この二つを必ずお守りください。
もしも世界の住人にほかの世界から来たと悟られた場合、単純にお客様が危険でございます。こちらに帰ってくることは愚か、様々な人体実験を繰り返されるでしょう。
なぜならば、パラレルワールドを往来できるシステムを開発できたのは私達のこの世界のみなのです。ですからこのサービスが成立するのですね。
……そう言う意味ではお客様が危険なだけとは言い辛くなりますね。もしもお客様が科学機関に囚われ、なんらかの理由で他の世界にもパラレルジャーニーのシステムが開発された場合、こちらの世界にやってくる人もおられるということです。
そうなれば、この世界がほかの世界の住人に脅かされることも考えられます。
もうひとつの注意事項である自分を殺してはならない……というのは、簡単に申しますと世界には影響はございませんが、お客様の存在そのものが無くなってしまうのです。
他の世界の自分自身を自分が殺すというのは、一般的にいう自殺と同じ意味でして、命というより魂そのものを消してしまいます。
つまりは、先ほどの生まれ変わりの権利を永久に失うことになるのです。
ですので、この二つを必ずお守りください。
おや、なんでしょう? トラブルでしょうか?
いえ、機械のトラブルではございませんのでお客様は旅をお楽しみください。それではカウントを始めます。
10……9……8……
ちょっと、あなたはなんですか? きゃあっ! お腹から血を流しているじゃないですか!
あれ……?
あなたは、どうして? あなたはここに座って……
もしかして、お客様……あなたは、この世界の人間じゃ……
2……1……
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