考察・ジェイソンか貞子 / 恐怖の種類
■モンスターと幽霊
どうも最東です。
ホラー作家なんていうものをしていると、やはりホラー作家が周りに集まってくるようで、時折ホラー談義に花を咲かせることもあります。
つい先日も、そんなホラー作家談義に恐恐と盛り上がっていたところ、あるテーマが持ち上がりました。
「ジェイソンと貞子、怖いのはどっち?」
ジャパニーズホラーがすっかりと市民権を得ている昨今、この質問を日本国民大多数に聞けば恐らく、ほとんどの方が「貞子」だと答えるのではないでしょうか。
しかし、それはそれで仕方がないのかもしれません。
私の解答をご紹介するまえに、『日本人が何故貞子を怖いと思うのか問題』について考えていきたいと思います。
■日本人の持つ幽霊像
貞子の怖さというのはどこにあるのでしょう。
映画『リング』をご覧になった方なら、恐らく誰もがそれを理解しているのではないでしょうか。
そう、あの有名なテレビから這い出てくるシーンですよね。
正直、あの映画以前では、黒髪で長髪、白い服で顔は見えない少女……というのはそこまで恐ろしい存在ではなかったはずです。
ですが、貞子の巧みなところはその中に『黒髪で長髪、白装束』というエッセンスを取り入れていることではないでしょうか。
というのも、日本人の持つ『幽霊像』というのは恐らく、『白い着物の髪の長い女性』が代表的であるからです。
もちろん、この無意識に持つ幽霊像というものにも根拠があるように思います。
白い着物とは、死した人間が着るものでしたし、それは現在の葬式文化でも同じではないでしょうか。
昔から幽霊と言えば、白い着物に三角の布を頭に巻いている……そんな姿だったはずです。
そして、長い髪。
これは、江戸時代までの女性と言えば、みんな結髪で長い髪をかっちりと固めていたことに由来すると思います。
今の様にショートカットの女性など存在しなかったということですね。尼さんは別ですが(笑)
というわけで、彼女らは死した後に髪を下ろすわけです。そうすれば長い髪が露わになる……。
黒髪についてはもはや説明は不要かと思いますが、日本人の髪色といえば黒ですよね。
この美しい黒髪が日本人女性の美しさの根源だとも国際的な認識でもあるのです。
最後になぜ女性なのでしょうか?
これもこれまでの日本を紐解けば簡単に答えがでるでしょう。
昔の日本……少なくとも戦時中くらいまでは、女性の立場が弱かったのです。
いわゆる『男尊女卑社会』というものですね。
これにより、女性は男性よりも身分の低い物として扱われ、理不尽な言いがかりなどですぐに斬られたりしたのです。
そういったこともあり、日本人の持つ『幽霊像』というのは、潜在意識的に【黒髪長髪白着物の女性】と刷り込まれているのですね。
■植えつけられる正体のわからないもの
ここまでお読みいただけるとわかるはずです。貞子というキャラが如何に、日本人が潜在的に恐怖を感じる象徴をベースにしているかを。
これを着物ではなく、現代的に洋服にし(ワンピース)、さらに長い髪で顔その物を隠すことで、更に【得体の知れないもの】という感覚を植え付けることに成功したといっていいでしょう。
ですが、それだけならばここまでの恐怖を引き出すことは出来なかったと思います。
そこに加味されたのが、昆虫的な動き。
地面を四つん這いで這う姿は、ゴキブリのそれとよく似てはいないでしょうか。
この見た目と動きの気味の悪いギャップ、そして白目を剥いた目のアップ。
そして、なによりもテレビから出てくるという文明の利器を逆手に取った演出も相まって、我々日本人に対して【新しい恐怖の象徴】として絶対的な地位を得たのです。
現在では、その存在があまりに有名になり過ぎて、恐怖と言う感覚からは若干離れていってしまっていますが、その辺は映画『13日の金曜日』や『エルム街の悪夢』などにも同じことが言えます。
興行的に成功しているため、キャラ人気に頼ってシリーズ化するしかないからですね。
ビジネスとしてそれは仕方のないことだとは思いますが、それでも『リング』第一作目のあの途方もなく絶望的なインパクトは後世に語り継ぐものではないかと思います。
映画『リング』では、【呪いのビデオ】が重要なキーアイテムとして登場します。
貞子は、この作品中【呪い】の軸の人物として描かれ、満を持して登場する貞子の恐ろしさは筆舌に尽くしがたいのではないでしょうか。
日本人がDNAレベルで『知っている怖さ』を演出し、さらにそこへ『呪い』というスパイス。
日本は元々、神を信仰する国です。
現実に生きているものよりも、死したもの……特に死したものが遺した【呪い】を畏怖する傾向にあるのです。
そのため、【呪い】を駆使して【あなたを殺しにやってくる】貞子は怖いのですね。
■他にもある日本人が怖がるもの
今では『リング』と肩を並べていると言ってもいいホラー映画『呪怨』。
これについても同じようなことが言えるのですが、呪怨については少し様相が違います。
呪怨……既に字面からして怖いですが(笑)、それよりもこの作品はうまい具合に洋画ホラーのエッセンスも取り入れているのです。
どういうことかというと、『呪い』というものをある意味一つの【モンスター】として描いたからなのです。
『リング』が、【呪いのビデオ】を介して『呪い』を《拡散》するものであるのならば、呪怨は特定の人間を確実に【呪い】ます。
『リング』のように拡散性はないものの、【呪いのビデオを見たら……】という条件が無く、ただ【その家に入った】人間を理不尽なほどに追いかけ回し呪いによって殺す。
更には呪いの対象となる人物の家族にもその呪いは理不尽に及ぶ。
誰でも彼でも無差別に殺しまわる海外ホラーの感覚と似てはいないでしょうか。
呪怨は、ハリウッドでも高く評価され【最恐のパンデミックホラー】としてリメイクされましたが、まさかの日本が舞台と言う設定。
上手く海外の人たちが抱く恐怖と、我々が抱く恐怖を融合させ、ジャパニーズホラーを不動のものにしたのではないでしょうか。
……ここまで紹介しましたが、次回は『ジェイソン』の【モンスターに追われる恐怖】について語ろうと思います。
今夜のお相手は、電子書籍ホラー作家 最東対地がお贈りいたしました。
【関連記事】
スポンサードリンク
関連記事
-
怪紀行かつてそこにあった栄華 兵庫神子畑選鉱場 2
怪紀行かつてそこにあった栄華 兵庫神子畑選鉱場 1はこちら ■神子畑交流館
-
ウケ狙い / ホラー小説
■目立ちたがり屋
-
ヨーロッパ史上最大の謎 / 不老不死のサンジェルマン伯爵
■謎に包まれたプロフィール どうも最東です。 今回も
-
心霊スポットの話 / 信号は赤か青か
■湿気と夏と怖い話 どうも最東です。  
-
怪紀行山梨・東洋一のラドン温泉!激烈に渋い湯~とぴあ
■最東、恵那峡に降り立つ どうもこんにちは。最東対地でおます。 いつも
-
ツアコォウ← / ホラー小説
■代弁者 &n
-
【怪紀行・滋賀県】使われることのなかった列車壕・岩脇蒸気機関車避難壕
怪奇行滋賀・兵主大社と土倉鉱山跡はこちら ■いわわきじゃないよ、いをぎだよ ど
-
ゲームのバグ / ホラー小説
■エミュレーター
-
グリーンインフェルノ / 食人族 レビュー
■有言実行の最東
-
怪紀行滋賀・ワンオペテーマパークin石田三成 佐和山遊園
■世はワンオペ戦国時代 どうも最東です。 ここで暴露しちゃうんですけど
スポンサードリンク
- PREV
- 妊婦 4 / ホラー小説
- NEXT
- 考察・ジェイソンと貞子 / 恐怖の種類 2