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妊婦 3 / ホラー小説

公開日: : 最終更新日:2015/02/24 ショート連載, ホラーについて

妊婦

■つきまとう和美

 

 

 

それからというものの、和美はやたらと莉奈にまとわりつくようになった。

 

 

買い物のスーパーや、産婦人科の検診、週末の予定など……莉奈と合わせられるものがあれば率先してついてきた。

 

 

少しは気になったが、それまでのいたずら電話の件で莉奈自身も参っていたため、どちらかといえば和美の些か過剰とも取れる接触も、彼女にしてみれば助かっていた。

 

 

それに、和美に何か悪意があるようにも思えなかったし、むしろ彼女は親切だったため莉奈は娘の沙弓共々和美と進んで付き合うようになる。

 

 

心なしか次第にいたずら電話も少なくなってきたような気もしていた莉奈のストレスは、和美のおかげで徐々に軽くなっていくのだった。

 

 

「ねぇ、莉奈。今度、泊りに行ってもいい?」

 

 

それでも和美のこの願い出には思わずさすがの莉奈も閉口してしまった。

 

 

その様を悟られまいと、すぐに表情を戻すも莉奈は、「そうだね、うちの旦那さんに聞いてみるよ」と答え、「うっそー! よろしくねー!」と和美ははしゃいだ。

 

 

 

■豹変

 

 

 

流石に家にまで泊めたくない莉奈は、正直にそれをいう訳にはいかない。

 

 

やんわりと断るのならやはり史郎に被ってもらうしかないだろう。

 

 

内心気は進まないものの、普段の協力的でない史郎が悪いのだと心に言い聞かす。

 

 

「あのね、うちの旦那さんがダメだって言ってさ……。泊まるって話……ごめん!」

 

 

当たり障りなく莉奈は両手の平を合わせ、明るく和美に謝った。

 

 

「え?」

 

 

予想と違う返事。

 

 

てっきり、和美は「あーそうなんだー。じゃあ仕方ないね」とでも言って軽く流してくれるのだと思っていた。

 

 

だが、和美の反応は莉奈が想像したそれとは違った。

 

 

「なにそれ? どういうこと? ちょっと、ちゃんとお願いしたの」

 

 

「……え、う、うん。お願いしたんだけど」

 

 

いつもコロコロと表情を変えて笑っている和美が、頬をぴくりともさせないほどに無表情になり、莉奈を見つめている。

 

 

突き抜けるほど真っ直ぐに見詰める瞳は、莉奈の心を鷲掴みにしたように胸を締め付けた。

 

 

「電話貸して。私が今から旦那さんに電話してお願いする」

 

 

すっと手を出し、電話をよこせと言わんばかりの態度に莉奈も思わず不快さを漏らした。

 

 

「なんでそんなことされなくちゃいけないの?! 泊まれないのは残念だけど、そこまでしてすることじゃないじゃない!」

 

 

「だって、莉奈はちゃんとお願いしてないでしょ」

 

 

なんの感情も感じない和美の一言に、莉奈は背筋が寒くなった。

 

 

確かに、史郎に和美が泊りに来たいと言っている旨は伝えていない。

 

 

だがだからといって、なぜこんなにも高圧的に強要してくるのだろうか。

 

 

「もういいじゃない和美。和美の方が生まれるの早いんだから、子供が生まれたら一緒においでよ」

 

 

出来るだけ平静に努めながら、莉奈は言った。

 

 

「よくない!」

 

 

急に大きな声で和美はヒステリックに叫んだ。

 

 

「……うええー!」

 

 

和美の声に驚いた沙弓が泣き始めるのを、和美が睨む。

 

 

「うるさい!」

 

 

「ちょっと! うるさいってなによ子供に向かって!」

 

 

流石にこれは莉奈も怒った。

 

 

「子供には関係ないでしょ! それにあなたが大きな声を出したから沙弓が泣いたんじゃない! 無茶なことばっかり言って……やっぱり泊まらせない! 史郎に聞くまでもないわ!」

 

 

お腹を庇いながら沙弓を抱き、莉奈は怒りに満ちた眼差しで和美を睨んだ。

 

 

「聞くまでもない……? 聞いてないの」

 

 

莉奈はハッと口を押さえた。

 

 

「聞いてもないのに、断ったってことは……。やっぱり莉奈は私のことが嫌いなのね」

 

 

「いえ、その」

 

 

たった今まで怒っていたのは莉奈のはずだが、ふと放ってしまった失言のせいで勢いを無くしてしまった。

 

 

「いいわ。今から行く」

 

 

 

■和美

 

 

 

「馬鹿なこと言わないでよ! なんで今から……」

 

 

和美が歩き始め、莉奈を追い抜き先へ行ってしまった。彼女は迷うことなく道を進んでゆく。

 

 

「……うちの家、知らないはずよね」

 

 

莉奈が案内しなければ、和美は莉奈の自宅を知るはずがない。

 

 

だが、歩いてゆく和美はあたかも「知っている」と言わんばかりに歩速を速めて進んでいった。

 

 

莉奈の顔から次第に血の気が引き、青白く顔色を変える。

 

 

「そんなこと……」

 

 

――まさか、そんなはずは……。

 

 

何度も自分にそう言い聞かせながら、莉奈は立ち上がると沙弓の手を引き和美の背を追いかけた。

 

 

「そんな……」

 

 

和美が進む先は、莉奈の自宅まで帰る道そのものだった。

 

 

この辺でよく会うから……と言って、和美が莉奈の自宅から近い場所を指定することが多かった理由が、青ざめる莉奈は唐突に理解した。

 

 

「ずっと知っていたの!?」

 

 

妊婦とは思えない速度で前を行く和美に、同じく妊婦でしかも子供連れの莉奈にはとても追いつけない。

 

 

「ちょっと待ってよ! 和美!」

 

 

和美を呼ぶも彼女は振り向きさえせずにずかずかと進んでいく。

 

 

そして、お腹を庇い沙弓の手を引きながら必死で追いついたその場所は……、

 

 

莉奈の自宅だった。

 

 

 

【続く】

 

 

 

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