ホラー小説 / デザイナーのお仕事①
■写真、加工します。
「では、ここのラインをくっきりとさせるんですね。そうですねぇ、3ミリほど削ってみましょうか」
「ここに邪魔な通行人がいるので消しておきましょう」
「ちょっと逆行気味なんでコントラスト上げましょうか」
俺はフリーランスのデザイナーだ。
仕事は手広くやろうと思い、写真の加工などの仕事も受けたところ……それが予想以上に受けてしまった。
小さなプロダクションや、売り出し中のアイドルなどのグラビアの修正が増えているのだ。
元々はイラストやロゴなどを中心でやっていきたかった俺は、内心複雑な気持ちだった。
フリーで食っていくには選んでられないと思いおまけ程度の感覚で始めたが、まさか写真修正が主になるとは思っても見なかった。
支持されれる理由は分かっている。
それはずばり値段だ。
さっきも言った通り、写真加工はおまけ程度に始めた分野だ。だからこそ値段も低めに設定している。
そこに目を付けられたというわけだ。
今更プライスアップを図る訳にもいかない上に、今では大事な収入源になっているから始末に負えない。
割り切ってやってはいるが……俺の気持ちは燻るばかりだった。
■写真に不審な人影
「……? なんだこれ」
そんな燻った毎日のとある一日。いつものように自宅兼オフィスのデスクで作業をしていた俺の目に妙なものが飛び込んできた。
「……これは……人か?」
俺は自分の仕事ようのHPを持っていて、そこからWEBを介して仕事を受注することもある。
WEBからくる依頼は、7割方一般の客だ。
普段オフラインで貰う業界の仕事と違い、幾分が気持ちが楽だ。
この日、俺が任された仕事はある家族の七五三の写真だ。
当日、生憎の曇り空だったため写真が暗く、人通りが少ないタイミングで撮ったものだったが数人の通行人が映っている。これを修正してほしいというよくある依頼だった。
何の変哲もない、普通の写真。
メインの女の子が着物でめかしこんでポーズを取る後ろ、大きなお寺の屋根と空気穴のような梁の境目……。妙に赤い点が見えた。
その箇所をズームで拡大してみるとその隙間から人がこちらを向いて両手を振っているようなものが写っている。
だがぼんやりとしていて人の様にも見えるがそうでないようにも見える。
更に拡大しても画素が荒くなるばかりでそれ以上はっきりと判別できなかった。
「こんなところに人が? こんな真っ赤な? バカバカしい」
これが俗にいう“心霊写真”というものか? と笑いながら俺はその赤い何かを写真加工ソフトで消した。
■消えない人影
最終チェックを行い、全ての修正箇所が反映されていることを確認すると俺はメールで修正したデータを納品した。
その頃にはあの赤い人影のことなどすっかり忘れていた俺だったが、思わぬところで思い出すこととなる。
「……これはこないだの奴と似ているな……」
別の案件にかかっている時、あの赤い人影らしきものが写っている写真とぶち当たったのだ。
「デジカメ特有のもんか……? 聞いたことないけど」
それもWEBから来た依頼の写真だ。だが、前回の写真とは依頼主が別人だ。
場所も違うし、同じものが写る訳がない。
俺は偶然映り込んだ赤い人影を見て、妙な偶然もあるものだと笑った。
素人の撮った写真はカメラの性能は良いが、撮り方を知らずに撮っているので折角の性能が宝の持ち腐れだ。
それは拡大した時、特に顕著に表れる。
「ほら、またぼやけた……」
その写真は結婚式の写真だ。新婦が妊娠しておりドレスを着ていても少しぷっくりとしているのでそれを修正してほしいとのことだ。
なるほど、式には専属のプロカメラマンがいるが、そんなわがまままでは付き合いきれないというわけか。
綺麗なホテルで行われた披露宴と式を写した数枚の写真。
その中にあった新婦と新郎がキャンドルの火を灯して周るシーンを切り取った一枚。
暗い会場、バックに写るカーテンの上部にそれは写り込んでいた。
これがもし人だとするならば、凡そ人が立ち入れる高さではない。
現実的に考えれば、有り得ないことなので少し背筋が寒くなるが、有り得ないことだからこそなんらかの写り込みだと確信できる。
そう思いながらいつものように赤い影を削除していると、画面の左上に『メール受信』を知らせるウィンドウが現れた。
仕事のメールかと思い、作業を上書き保存するとメールソフトを開いた。
「え……」
それは俺が先日修正した例の七五三の写真を依頼した客からだった。
“赤い光が消えていない”という内容だ。
「確かに消したはずだぞ……」
確認しようと俺はバックアップを取っていたデータを開く。
ごく最近見た七五三の写真。そして、寺の屋根付近にはしっかりとそれが写ったままだった。
「馬鹿な、俺の思い込みか?」
プロとしてしてはいけない初歩的なミスだ。消したと思い込んでいた赤い影を消していないなんて。
消したつもりだったが、こうやってしっかりと証拠がある。
俺は客に謝罪と再加工の意思のメールを送り、やりかけていた先ほどの作業に戻った。
後一時間ほどで終了する予定だったので、先に片付けてしまおうと思ったのだ。
「……あれ?」
結婚式の写真。カーテンの隙間から覗いていた赤い影。
「俺、消してなかったっけ」
首を傾げ、俺はもう一度それを消し2枚の写真を修正した。
【つづく】
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