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【連載】めろん。90

公開日: : 最終更新日:2021/05/04 めろん。, ショート連載, 著作 , ,






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・綾田広志 38歳 刑事㉞




「綾田ちゃんには悪いが、僕はその説に関しては懐疑派さ。これまで約70年。どれだけのことを試してきたと思ってるの」




「そうか。だが俺にはあんたがまるっきり信じていないようには見えなかったがな」




 両間はにこやかな表情をほんの一瞬だけ強張らせた。




 そして小さな溜め息を吐き、オーバーに手を広げる。




「音楽が有効かもしれない……という段階はもう通っている、ということだよ。発症者には色んな音楽を聴かせた。生バンドやオーケストラ、本人に無理矢理演奏させたりもしたさ。けれど大した成果は見込めなかった」




「だが音楽を検証するに至ったきっかけがあった。闇雲にあらゆる手段を講じたわけじゃないだろう」




 両間は指でっぽうの2丁拳銃をこちらに向け、「ビンゴ!」とおどけた。




「そうなんだよ~。発症者が音楽に反応を示し、症状が軟化したっていう報告がわずかだけど揚がってきたんだ。だがその肝心な曲がわからない」




「わからない? なぜだ」




「報告された曲に反応したのは軟化した発症者だけ。ほかの発症者は無反応だった。つまり例外的に反応したのではないかと推測された。ほら、別に正常だったころの記憶を失ってバケモノになるわけじゃないでしょ。僕が動かぬ証拠じゃん。ああ、動くけどね」




 かははっ、と陽気に笑ってみせるがその話を無視できなかった。




「ひとによって違う曲なのかも」




 そうかもしれないね、と両間は答えふたたび正面の椅子に座る。




「だが誰がどの曲に反応するかなんて途方もない話だ。世の中にどれだけの音楽が存在していると思う? 個人差があり、それぞれバラバラの曲に反応するというのなら調べようがない。……とかいいながら、検証はしたけどね」




 案の定収穫はなかった。




 手あたり次第に曲をかけ流し、その様子を24時間観察したが特に変わった様子はなかったという。




「そもそも音楽に反応する、って言うこと自体が眉唾だった。それに加えて膨大な時間を費やした検証も結局無駄になったしね。失敗は成功の母、そんなことで落ち込みはしなかったけど『発症者に音楽が効く』というのはすっかり都市伝説級のうさん臭い説に成り代わったというわけだ」




 本当にそうだろうか。




 両間の言っていることは嘘ではないだろう。おそらく音楽についてはかなりしっかりと検証したに違いない。




 だが両間本人も言っていた通り、個人によって反応する曲が違うとするのならば探しようがない。コストを考えれば頓挫するのも無理はないだろう。




「俺はうさん臭い話だとは思えないがな」




 両間は呆れたような目で俺を見る。




 にやけた顔が余計にバカにされているように思えた。




「根拠なく言ってるんじゃない。大城のノートを見ろ」




 拘束されている俺の周りにはなにもない。つまり、所持品はみんな没収されている。




 その中に大城が遺したノートがあるから見てみろと両間に訴えた。




「あれね、見たよ。『めろん患者は音楽に反応するかもしれない』ってやつだろう? 友達だったのはわかるけどあれだけの記述を鵜呑みするのはねえ」




「大城の家に行ったとき、大音量で音楽が流れていた。よく知らない曲だったが、聴いた感じではアニメの主題歌のようだった。それも女の子向けの」




 両間から一瞬だけ、すっと表情が消えた。




「プリキュアかい」




 そう訊ねるとまたゆっくりと表情が戻ってゆく。




「……そうだな、確か……そうだった。そうだ、プリキュアだった」




 脳裏によみがえる凄惨な光景。




 大音量のアニメソングとは対称にして、静かに天井からぶら下がる大城。そこから見下ろすように妻と娘が横たわっていた。




 家族3人、仲良く……死んでいた。




 その時に流れていたのが、プリキュアだった。




「なぜ知っている」




 知っていてもおかしくはない。だが聞かずにはおれなかった。




 両間は黙ったまま考え込んでいた。俺の問いに答える気はないようだ。




「……どうしてだと思う? 綾田ちゃん」




 やがて両間がぽつりと訊ね返した。




「どうして、とは」




「どうしてプリキュアだと思う」




「娘が好きだったんだろう」




 それしか考えられない。




「あの現場、君も見たんだよねえ?」




「だからなんだ」




 見たもなにも、一番最初に見つけたのは俺だ。まごうことなき、第一発見者なのだ。




「大城一家は死んでいたねえ。あの状況、綾田ちゃんはどう見たの」




「知るか」




「尖らないで真面目に答えるんだ。からかっているんじゃない、公安のいち警官として意見を聞いている」




 両間の声のトーンが変わる。それで俺の気持ちも切り替わった。




「状況から見て、大城の妻が発症。娘を食べようとして殺したがそこに大城が駆けつけ、妻と格闘した末に殺してしまった。ふたりの死に悲観して、娘が好きだったアニメの曲をかけて首を吊った……というところか」




 両間は黙って首を横に振った。




「……違うのか?」




「遺体を調べてみるとね、逆なんだよ」




「逆?」




「そう、綾田ちゃんの推察とは逆。奥さんが発症したんじゃない、娘ちゃんが発症した」




「なんだと?」




 横に並んだふたりの死体。死んでからそこに横たわらせたのは想像に難しくない。




 大城の妻が発症し、娘を死なせたのだと考えた。




 根拠は、幼い娘が母親を殺せるわけがないと思ったからだ。




「先入観で物事を決めつけるのはご法度じゃないの~綾田ちゃん」




「説明しろ!」










めろん。91へつづく

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