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【連載】めろん。81

公開日: : 最終更新日:2021/02/23 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,






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・坂口勉 38歳 大学准教授②




 研究室は人手が足りない。だが無能な助手が視界をうろつくことを考えれば今くらいがちょうどいいのも正直なところだ。




 つまるところ気楽なのだが、横の疎通はほぼないとも言えた。




 雨宮『めろんの進行をセーブできるのか』という質問に些か取り乱すところだった。




「俺は……〝めろん発病者〟を事前に判別できるシステムを作った」




 雨宮は目を丸くし、こちらを見つめた。




「聞いてないんだけど」




「言う必要がなかったからだ。お前たちにも必要なかっただろう」




 そうだけど……と言った雨宮の表情は複雑だ。




「そんなものでもなければ村に人を連れてこれない」




 話しながら大城のことを思った。残念な話だが両間が念のためにと大城家に使用したそれが反応を示したのだ。ツイてなかった、としか言いようがない。不幸な男だ。




「それがあればめろんが発症する人間を選別して隔離できたはずじゃない!」




「ここがその隔離施設だ。それに健康な人間を片っ端から調べるのか? 日本の人口を知らないわけでもあるまい」




「そんなの屁理屈でしょ! たくさんの人を救えたはずじゃない、理沙だって……」




「感情的なのは知っているが、君が言っていることは実にジャーナリズムからは外れているように思うね。俺が言っているのは現実的ではないということだ。屁理屈と断じてもいいがなにか代案でも?」




 唇を噛みしめたままなにも言わなくなった。




 おそらく理性の部分ではわかっているのだろう。だが彼女が口にした通り、理沙のことが雨宮から冷静さを奪っている。無論、そこには綾田の存在も大きい。




 それはわかるがそれにこちらが乗ってやる道理はない。そもそも本題はそこではないので論点をずらされるのは不本意だ。




「聞け。今はその理沙と綾田のことが先決なのだろう。君の理想論はあとにしろ」




「……理沙」




 感情的なタイプは痛いところを突いてやると大人しくなる。もっとも逆上する場合もあるが、彼女が前者でよかったと内心胸を撫でおろした。




「話をつづけるぞ。俺はシステムを作ったが、結局〝事前にわかっても止められない〟ということだ。これから食べられる人間は救えるかもしれんが、本人を救う手段は現状ない。だから俺はこれまで『進行を遅らせる』ことについては考えたこともなかった。それにそれは俺に課せられたオーダーとは違うからな。奴らからのオーダーとは『めろん発症を止める手段』だ。考えてみればその過程で『進行を遅らせるもの』を作らせてもいいものを、そう補足しなかったのはやつらはすでにそれについては解決済みだったのかもしれないな」




「ってことは、そういうものがあるってこと?」




「おそらくとはいわない。ほぼ確実に存在すると思って違いない」




 その瞬間、雨宮の表情がパァッと明るくなった。




「じゃあ理沙にそれを投与すれば……」




「進行は遅らせる。……が」




 言葉にするのをためらう。雨宮は俺の表情を見て明るさに陰りを刺した。




「なによ……」




「今は眠っているが、理沙はもう段階で言うなら末期だ。これ以上進行しようがないから、理沙の進行を遅らせても無意味だ」




 雨宮は目を尖らせて睨みつけた。だがすぐに固くまぶたを閉じ、深呼吸をしてみせた。




「そう。わかった……じゃあ、広志と合流することが先決ってことは変わらないってわけね」




「そうだ」




 ふたたび目を開けた雨宮の強い眼差しを見て、俺はすこし安心した。他人のために強くなれるタイプがすこしうらやましいとさえ思った。




 そうして俺たちはふたつに分かれた。




 ひとりになった後で上層部がすでにめろんに罹患している可能性を考えた。




 その上で雨宮のいう『進行を遅らせるもの』を摂っているのだとしたら。




 ……待て、本当にそれは『進行を遅らせるもの』なのか。ひょっとして奴らはすでに『進行を止めるもの』を手に入れていて、自分たち以外の人間にそれを譲る気はないから村にめろん発症者を集めているのではないか。




「まさか。そんなことがあるわけがない。そもそも進行を止めるなら、俺にワクチンの研究をさせるはずがない」




 口に出して確認したのち、俺は考えを打ち消した。




 遅らせるとしてもそれはあくまで遅らせるだけで、それは根本的な解決にはなっていない。いつかは発症することは確かだ。




 奴らはその恐怖からここを作った。そして人知れず研究させている。




「……やれやれ、知らないことだらけじゃないか俺は」




 溜め息を吐いた。正直、自分の上の連中のことやめろん村のことなどどうでもよかった。ふと頭をよぎることはあっても本格的にこのことについて考えたことなどなかったのだ。




 ……いや、考えることを避けてきただけだ。余計なことだと自分に言い聞かせて。




 ならば今の俺はなにをすべきだ。綾田と合流してどうする?




 この施設を終わらせるのか。それともめろん村の住民を解放するか?




 ワクチンでさえ今だ光も見えない状況の中、俺は逃げるのだろうか。すべてを綾田たちになすりつけて。




「違う。今は……子供を救いたい。理由はそれだけでいい」







めろん。82へつづく

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