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【連載】めろん。76

公開日: : 最終更新日:2021/01/19 めろん。, ショート連載, 著作 , ,












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・破天荒 32歳 フリーライター⑱




 緊張感が漂っていたのは村にでるまでの間だった。




 施設を歩いている時、坂口はひとことも言葉を発することがなく、やはり私たちは坂口に騙されていて、これから取り返しのつかない場所へと連れて行かれるのではないかとも邪推した。




 だがそんな私の邪推は徒労に終わる。




「ここがめろん村だ」




 町に出てしまえば監視は途絶えるだろうと坂口は話した。町中にあるカメラに捕捉されたとしても、中の連中はできるだけ村へ来ようとはしない。理由は単純、危険だからだ。




「それゆえここまでくるまでの道中が危なかった」




「バレてなかったってことなの」




「さあな。泳がされているだけかもしれん。率先してめろん村に行くなんて自殺しにいくようなものだと思われた可能性もある。俺もあ同感だがね」




「スーサイドスクワットってわけか」




「なんだそれは」




 なんでもない、と答えて改めて町の景観を見渡した。




「本当に……どこにでもある町って感じね」




「こんな山奥にさえなければな」




「あのさ、気になってたんだけどそんなにここの連中って人手が足りないの」




 ひとまず村に来れたことの安堵感のついでに坂口に疑問をなげかけた。




 施設内はどこにでもカメラもあるし盗聴もされている。だが一向に誰かが押しかけることもなければ、結局村にもなにごともなく辿り着いてしまった。




 こちらとしては都合がよくて結構だが、あまりにもなにもなさすぎていささか気味が悪い。




「冗談のような話だろう?」




「えっ、本当にそうなの」




「そうだ。ここの存在自体知るものは少ないし、まして事情を知るものはもっと少ない。この施設でもっとも権限を持つのは両間で違いないが、働く人間は極端に少ない」




「これだけカメラや盗聴器がいっぱいあるっていうのにそれを監視する人間がいないってこと? そんなバカな」




「そんなバカなことが現実なのだよ。鬼子の子孫たるおえら方々は後ろ暗い出自を知られたくない。だから公安の特に信用のおける人間だけを雇い、ここの運営を任せている。内情は察しの通りだ。カメラも盗聴器も数に見合うだけの働きをしていない」




 閉口した。




 杜撰すぎると思った。人手がないという理由だけでこうもほったらかしになるものだろうか。




「だからこそ俺としてはやりやすかったのだがね。だがそれもたった今終わった」




 めろん村に足を踏み入れたからには後戻りはできない。




「なんでも知ってるんじゃないの!」




「知ってるさ。この村からの出方も知っている。だが知っているから必ず出られる保証があるほどあまくはないということだ」




「人がいないんでしょ」




「だから要所に集中させる。それが人情だろう?」




 つまり、出る方法は知っているが出るために通らなければならない関所に人員が割かれているということだ。




「俺だけなら難なくここから出られるが君らは無理だろうな」




「だからわざわざ付き合ってくれたってことか」




「否定はしないがね、そう決めつけられると少々心外だ」




 そういいながら理沙を背負っている。口は悪いが本気で子供たちを置いて自分だけ逃げるとは思えなかった。短い時間でここまで印象が変わるものだと自分でも呆れた。




「ここまで来たならやることをやるまでだ。まずは綾田の捜索」




 檸檬と顔を見合わせ、互いに意思を確かめ合いうなずく。




「おじさん、私は大丈夫」




「おじさん? ……俺も焼きが回ったものだ」




 そう言ってすぐに顔を背けたがかすかに口元が笑んでいるのが見えた。意外と子供が好きなのかもしれない。




 理沙を背負っている後ろ姿を見てそう思わずにはいられなかった。




「何軒か空き家をピックアップしておいた。まずはそこで落ち着こう」




 坂口は自ら引率し、一軒の家へと向かった。




 その道中で改めてめろん村を見回す。本当にひとつの町だ。これが山の中だなんて信じられない。




「ちゃんと俺についてくるんだ。ここはカメラだけじゃなく他の住民にも監視されるからな」




「他の住民……」




 めろん発症濃厚者だ。




 ここにいればいつかは必ず発症する。そんな人間だけが集められた町の中にいま自分は立っている。




 ふと視線を感じる。振り返るがそれがどこからかわからない。




 ただ、目に入るのは家、家、家。この住宅群のあちこちから見られていると思うだけで怖気が走った。




 もしかするともう発症しているのかもしれない。私たちのことを人間ではなく『食べ物』として見ているのかもしれない。




「ま、待って……」




 檸檬の手を引き、坂口のそばへ急いだ。




 やがて空き家に辿り着き、坂口は玄関ドアを開けた。




「カギ……」




「内鍵しかないんだよ。鍵を持ち歩く必要がない」




 坂口が鍵も刺さずに開けたのを見て訊いたが、その理由に唖然とする。




「それって、勝手に好きなところに住めってことよね」




「そうだ。どうせめろん村からはでられないからな。誰がどこに住んでいるかを管理する意味がない」




「でも籠城できるんじゃないの、内鍵のみだったら」




「磁石で開く。ドア越しに強力な磁石を当て、回すんだ」




「そんな原始的な!」




「原始的だが金もかからないし効率的だ。そして鍵を開ける道具は管理局が持っている」




 なにもかも雑だ。ものも人も……。




「ハナっから人間扱いする気がないってことね」




「彼らにとっちゃここはただのメロン畑さ。収穫を待つだけだ」







めろん。77へつづく

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