【連載】めろん。47
・三小杉 心太 26歳 刑事③
大城にであってから数日が経過していた。
それなのに僕はこの家の外にだしてもらえていない。聞けば広島県警のいち警部補だという。階級は上だが本庁の僕が言うことを聞く筋合いはない。
だがついていないことに大城は綾田の学生時代からの友人だというではないか。これでは突っぱねて自由行動を獲得したところで綾田からカミナリを落とされるのは目に見えている。
さて、どうしたものか。
「どうだ三小杉。ここの居心地は」
大城がやってきた。両間から放り込まれた闇の中で拾われた僕は、大城の家にいた。
ここには彼の妻と娘も一緒に住んでおり、正直居心地は悪い。どうして他人の家庭に自分がぽつんといるのかがわからなかった。
「大城さん、もういいでしょう。僕を自由にしてください」
「だめだ。外にでたら危険」
またこれだ。大城は外にでたいと申し出ると必ず、外は危険だと言って聞かない。そのくせなにが危険かは答えない。
「僕には仕事があるんです。頼みますよ」
「仕事? 俺にはお前が夜に迷っていたようにしか見えなかったがね」
「突然病に放り込まれたああもなりますよ。助けてくれたことは感謝していますが、外にも出ずここで何日も缶詰にされる理由がわかりません」
それに一体ここはどこなのだ。窓から望む景色は普通の長閑な町に見える。異様に人通りがないのが気になるが、危険な要素は一切なさそうだ。実際、ここへきてから外でなにも起こってはいない。
「運がよかったんだよお前は。綾田の部下で、なおかつ俺に拾われた。あのまま彷徨っていたらどうなっていたか……」
「いい加減な脅しはやめてください。危険なことなんてなにもないでしょう。土地鑑がないので大城さんに従っていましたが、もう限界です」
「じっとしていればいいんだ。俺もここからでる手段を模索しているところでね」
「ここからでる手段? そんなの勝手にでればいい。引っ越し業者なら今時ネットでも注文できるでしょう」
そういうことじゃないんだよなぁ、と大城は苦笑した。
僕のことを馬鹿にしているようで腹が立つ。
「そんなことよりも大城さん、勤務はどうしているんですか。見たところ時々外にはでているみたいですが、仕事をしているようには思えない」
「仕事なんてしてねえよ。したくてもこの状況じゃどうにもならない。通信手段もないし、体のいい監禁だこれじゃ」
言っている意味がわからなかった。これのどこが監禁なのか。
だが通信手段がない、というのもまた事実だった。どういうわけかここはインターネットの環境がない。僕のスマホもずっと圏外のままで、ネットはおろか電話すらもできないでいた。
やむを得ない事態のため、大目に見てもらえるとはわかっていても先が見えない現状に悶々とするのみだった。
両間に従っているのだからなにも問題はない……と信じたかった。
「まだ両間伸五郎を信用してんのか」
「あなたよりもずっと信頼に足る方です」
「どうだろうな。信頼できるかってところは賛同できないね」
大城は家族ごとここへ強制的に連れてこられたと話した。
両間が隠したいことを知ってしまったがための口封じだとも語った。
バカバカしい話だ。誰がそんな話を信じるというのだ。
もっといえば両間が信頼に値しなかったとしても関係はない。彼にとって利用価値がある人間、すなわち役に立つ優秀な人間だと認められれば絶対に裏切りはしない。
ヒエラルキーの上層にいる人間というのは下層のものにまで平等にはしないのだ。
だから僕は両間に証明する必要があった。
「ずいぶん両間にご心酔のようだが、お前は一体なにを奴に頼まれたんだ?」
「守秘義務がありますので」
「なら言ってやる。なにも言われてないんだろう。だから愚痴を言っていてもお前はこの家からでない」
反論しようと思ったがやめた。
大城の言っていることは的を射ていたが、図星だとは思わなかった。
きっと外にでれば両間の使いのものが接触してくるはずだ。この家からの脱出だって下手をすれば両間のテストなのかもしれない。
そう考えると急に大城が試験管のように見えてきた。すべてを知っていて僕を試しているのだろうか。
「とにかく、勝手なことはするな。信じられないだろうが俺が言っていることは本当だ。いつになるかわからんが、ここをでるタイミングは俺が教えてやるから今はおとなしくしていろ」
とても正気とは思えない。これでも警察官の言葉か。
言っていることが抽象的過ぎて具体性もないし、信用に足る根拠もない。やはりなるべく早くここをでるべきだ。
そして、僕は僕のやるべきことをやるしかない。
それにはまず大城の目をいかにしてかいくぐるかだ。
「一見、普通の人間に見えても中身は違う。それをよく覚えておくんだな」
一瞬、心を読まれたのかと思った。
大城の横顔を覗き見るとそうではなく、つぶやきに近いものだったようだ。
「中身は違う? ゾンビとかですか」
「揶揄うな。お前だって知っているんだろう。めろんを……」
思わず絶句した。なぜ大城がめろん事件を知っている?
いや、知っていてもおかしくはないがそれをどうしてここでするのだ。
僕が懐疑の目で見ているのにも気づかず、大城は窓の外を窺っていた。
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