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【夜葬】 病の章 -86-

公開日: : 最終更新日:2018/08/28 ショート連載, 夜葬 病の章 , , ,

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テレビ屋さん。

 

 

あんた、知っているかい。

 

 

世の中には知ってはいけないことってものがある。

 

 

人間ってのは不思議なもんでねぇ。

 

 

知らぬが仏ってわかっていても、手の届く近さに『真実』があれば近づいてしまう。

 

 

知ってしまったら最後。

 

 

後戻りができなくなるっていうのにねえ。

 

 

わかってるんだ。

 

 

わかっているのに、ついつい覗き見しちまう。

 

 

……怖いもの見たさって言葉があるだろう?

 

 

ありゃあ罪なもんだ。

 

 

怪談や夜話にキャアキャア喚いてる女子供も、いざ話が始まれば息を殺して聞き耳を立ててやがる。

 

 

怖れ、とはなんだろうね。

 

 

怖いという感情は、ありゃあ『死の危険』を察知する感覚じゃあないのかね。

 

 

だとすれば、わざわざそれを知りたい。感じたい。……なんていう人間はやっぱり俺からすれば物好きという他ないねえ。

 

 

俺が言いたいのはね、『知る』ということは『怖れ』ということなんだ。

 

 

興味や好奇心もあるだろう。

 

 

けれど触れてはいけない『穢れ』とはもれなく真実と共についてくるもんさ。

 

 

意図せず真実に近づけば、いつの間にか触れている。

 

 

【夜葬】にはそんな穢れと恐れがあるのさ。

 

 

さあ、テレビ屋さん。

 

 

それでも知りたいのかい。本当のことを。

 

 

今ならまだ引き返すことができるってもんだ。

 

 

そのテープレコーダー、急に調子悪くなったんだろう?

 

 

仕方ないさ、機械は正直だ。

 

 

人間よりも純粋に、『触れたくないもの』に反応する。

 

 

故障じゃなく拒否。きっと帰れば元に戻るよ。

 

 

やれやれ、それでも聞きたいのか。

 

 

若いというのは恐ろしいねえ。

 

 

だがしかし、俺自身も若い頃の恐ろしい経験がきっかけとなったんだ。

 

 

若さとは無謀なのだな。

 

 

失敬。

 

 

勿体つけるつもりはなかったんです。勘弁してください。

 

 

俺はねぇ、一九五五年のあの日、新聞屋とテレビ屋に投書をした。

 

 

余所者もいなくなり、【夜葬】を再び蘇らせたあの村のことが気になったからだ。

 

 

誰も止める者もいなくなり、敬介という悪夢のような存在が村の者たちを率いた。

 

 

村がどうなってしまうのか、知りたかった。

 

 

それにもうひとつ。

 

 

こっちが本懐だと言っていい。

 

 

誰かに止めてほしかった。都合のいい口上だってのはわかっている。

 

 

でもねぇ、俺はもうあの村には行けない。

 

 

そういう風になっちまったんだぁ。

 

 

あの村の存在が電波に乗れば、もしかすると……と期待したんだな。

 

 

新聞屋の宇賀神さんところに投書したのは、彼は村の場所を知っているから道案内してもらおうと思った。

 

 

テレビ屋さんに投書しておけば、きっと宇賀神さんに辿り着くだろうと踏んでね。

 

 

だが結果はご存じの通りさぁ。

 

 

テレビ屋さんも宇賀神さんも、どっちもいなくなっちまいやがった。

 

 

きっと、彼らはどんぶりさんになったのかなぁ。

 

 

本当に悪いと思っているよ。自分の心残りを他人任せにした代償かね。

 

 

ああ……そうなんですわ。

 

 

癌でしてね。どこの? そりゃああちこちですよ。へへへ。

 

 

だから、俺は老けてるでしょ。年よりもうんとね。

 

 

外見だけは親父に似てきたな、って思いますよ。

 

 

俺の話はいいんだぁ。話を戻そう。

 

 

問題はねぇ、彼らがいなくなったということは『連中にとっても不測の事態だった』ってことなんじゃないかって思うわけだ。

 

 

例えば、村でテレビ屋か宇賀神さんの誰かが死んだ……とか。

 

 

そうなれば死者は置き上がっちまう。地蔵還りとして。

 

 

それを阻止するには【夜葬】で葬るしかないんだぁ。

 

 

不思議だろう? 不可解だろう?

 

 

あの土地で死ぬとねぇ、村の人間だろうが他所の人間だろうが関係ない。

 

 

必ず『起き上がる』んだぁ。

 

 

一体いつからかわからないけどねぇ、【夜葬】がそのための儀式だとすれば、かなり昔からそうだったんじゃないかねぇ。

 

 

そりゃあ死者が歩き、生者を殺してまわるってんだからそんな恐ろしいことはない。

 

 

でっちあげの【福の神】に縋るだろうさ。

 

 

でもねぇ、俺は知っちまったんだよ。

 

 

今、俺は【福の神】がでっちあげだって言ったろう?

 

 

あの村で崇めてる神は、人が創った「ありもしない神様」なんだよ。

 

 

おそらくだがぁ、あの村はその、「ありもしない神様」を祀り、崇めることで怪異を引き起こしてるんじゃないかって思うんだぁ。

 

 

おっとっと、脱線したかね?

 

 

けどこれも大事な話だぁ。知っていて損はないと思うぜぇ。

 

 

とにかく、もしも村で彼らのうち誰かが死んで、それを他の誰かが無理に持ち帰ろうとしたとしたら、村人……いや敬介はただでは返さない。

 

 

【夜葬】をはじめちまう。

 

 

……ん? ああ、そっちの【夜葬】じゃない。お変わりのない方の夜葬だからな。

 

 

本当の【夜葬】は、一度始まっちまえば『二九人死ぬまで終わらない』。

 

 

いや、正確に言えば『二九人の魂が地蔵に戻るまで終わらない』……だな。

 

 

顔色が青いな?

 

 

気色の悪い話だものねぇ。仕方ないですわぁ。

 

 

そんな心境の時にこんなことを言わないといけないってのは、どうにも気が引けるんですが……。

 

 

あんた、『全部聞いた』ね?

 

 

どんぶりさんのこと、村のこと、夜葬のこと。

 

 

知ってはいけないことっていうのはなんのことか、そろそろ答え合わせが欲しいんじゃないですかぁ?

 

 

……この話をね、聞いた人のところにやってくるんですよ。

 

 

いきなり現れたりはしないんで安心してください……ただ、あきらかな『兆候』があるんでねぇ。

 

 

それは、残念ながら俺にもわかりません。

 

 

わかるのは、『どんぶりさんは、なんらかの手段をもって来ることを知らせる』ということですかねぇ。

 

 

なぜそんなことを知っているのかって?

 

 

そりゃあ村の出身ですから。贄になった子供たちがね、【夜葬】を真似て遊ぶんです。自分たちと同じ二九人を供物にするまで。

 

 

俺はね、それを拡散するための道具でしかないんだぁ。

 

 

よかったねぇ、俺が癌で。

 

 

死ぬまでに拡散できる人数なんて知れてるし、あんたみたく『自分から知りたい』と言いに来た人にしか俺は教えない。

 

 

残念だったねぇ。まだ若いのにねぇ。

 

 

遺書、書いておいたほうがいいと思いますよぉ?

 

 

次に会うことはおそらくないと思うなぁ。

 

 

俺か、あんたか、どっちかは確実に死んでるからさぁ。

 

 

ねぇ、テレビ屋さん……あ、違った。『弁護士』さん。

 

 

 

 

 

 

-87【完結】-へつづく

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