知らない建物 / ブログホラー小説
公開日:
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ショート連載
そういえばこの間、犬の散歩に出かけたときにふと気になったんだ。
公園の少し先にある大きな建物。
なにげなくいつも横切っているから、気にも留めなかった。
だから、ちょっと気になったんだ。
『これはなんの建物だろう』って。
最初はごみ処理場かと思ったんだけど、煙突もないしどうやら違うみたいだ。
四方を回って眺めてみようかと思ったが、犬の散歩中にそんなことするのは面倒だし、
散歩中以外はこの建物の存在すら忘れている。
まぁ、対して興味があるわけじゃないのが本音なわけだが。
しかし、前と通るたびに思う。
『結局、ここはなんなんだろう』
特に匂いがあるわけでもないし、人の出入りも見たことがない。
さしずめ、なにかの工場ってのがオチだろうけど、全く見当もつかないってのはなかなかない。
そうだ、近所に住む知人や家族に聞いてみよう。
「え、そんな建物あったっけ」
どの人間に聞いても、その建物の存在自体を知らないといった様子だった。
そうなって来ると、興味から好奇心に変わる。
散歩中でもないのに、建物の四方をぐるりと回ってみた。
ベージュ色の景色に溶け込む、四角い建物。
間違いなくなんらかの施設であることはまちがいない。
間違いない……はずだが……
おかしい、高いフェンスに囲まれているのに、門がない。
門がない上に、名称を記載したものもどこにも存在しない。
気色が悪くなってきた。
誰も気づいていないが、この妙な施設と共存しているということに。
耳を澄ましてみてもなにも聞こえない。
目を凝らしてみてもなにも動きはない。
そもそもここに人はいるのか?
窓はいくつかあるようだが……
気付けば、建物の周りを4,5周はしていた。
何週回ってみてもやはり入口はない。
「みょう……きょう……」
ん、なんだ?
微かになにか聞こえてきたぞ。
「みょう……きょう……」
目を閉じて耳に神経を集中させてみる。
なんの音だ……これ
しばらく聞いていると、どうやらそれが音というより声だということがわかった。
女性の声のようだ。
押し殺したような、低い声。
なんだ、なんて言ってるんだろう……
「みょう……きょう……」
同じ言葉をずっと繰り返しているみたいだ。途切れることなくずっと聞こえる。
もしかしたらテープかなにかを延々と鳴らしているだけかもしれない。
「わん! わんわん!」
唐突に犬の鳴き声がし、我に返った。
この鳴き声は、聞き覚えがある。
うちの犬の鳴き声だ。
家族が代わりに散歩にでもきたのか?
おかしいな、まだそんな時間じゃないはずなのに。
辺りを見渡すが、犬は見えない。
「わんわん!」
もう一度鳴いたので、その方向を向いた。
フェンスの向こう側にうちの犬がいた。
僕を見つめて、ハッハッと舌を出している。
え? なんで中にいるんだ?
どうやって入ったんだお前。
「みょう……きょう……」
突然背後であの声が聞こえた。
振り返ると、女性が立っていた。
「うわああああああ」
両手が無く、代わりにロボットのプラモデルが切断面に頭から刺さっている。
右足がなく、左足一本で立ち、右足が切断されている付け根には竹ほうきが突きさしてあった。
顔は……片目がなく、灰色の顔色で、口に携帯電話が刺さっており、その携帯電話から声が発せられていた。
「ひぃいいいい!」
自分の悲鳴で、その発せられている声が聞き取れなかった。
女のうでに刺さったプラモデルが血を噴き出しながらキコキコと動き、こちらに向かってくる。
目を閉じる瞬間、はっきりと一度声を聞きとることができた。
「なんみょうほうれんげきょう……」
なーるほど、お経だったのかぁ~!
キコキコ
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