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【連載】めろん。107

公開日: : 最終更新日:2021/09/21 めろん。, ショート連載, 著作 , , ,


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・綾田広志 38歳 刑事㊴







 赤く天を衝きそうな火柱をあげて燃える家をやじうまたちが見上げていた。 




 普段は互いに無関心を決め込み、その実警戒しあっていて姿を見せない住民たちも火事には外に出ざるを得ないと見える。




 二日間いるがこの町にこれだけの人間がいることを改めて知った。




 どの顔もぽかんと口を開け赤く照らされている。




 炎に魅了されているのか、魂が抜けたような顔ぶれだった。




 キャンプの最大のだいご味は焚火だと聞いたことがある。人は炎にじっと見入ってしまう性質があるといい、くらやみでの焚火はその性質を刺激するのだという。




 ならば火事もまた同じ原理なのかもしれない。いわれてみればいつの世も火事場にやじうまはつきものだ。




 俺ひとりが燃え盛る家に背を向け、間抜け面の住人達を見ていた。




 この中に蛙子はいないか、いや、いてくれ。生きて、この火事を間抜け面で見ていてくれ。




 隅々まで捜したが俺の求めるあの顔はなかった。間違いなく、蛙子はここにはいない。




 炎を振り返る。




 まさか……本当にあんなところにいないよな?




『死んでいる。この状況で生きているほうが奇跡だ。諦めて檸檬のもとへ帰れ』




 悪魔が囁きかける。




 違う。違う、そんなはずはない。




 抗う意思もどこか弱弱しく感じられた。




 だがどのみちここに蛙子がいないことはたしかだ。

 ここに長居していても仕方がない。炎を背に俺は火事場を後にした。

 めろん村の夜道はどの町のそれよりもくらい。目が慣れればうっすらと景色は視認できるようになるが、見えるようになってさらに暗さが際立つ。

 この真っ暗な闇に埋もれる町に蛙子がいる気がしなかった。

「蛙子! 蛙子どこだー!」

 それでも俺は叫んだ。きっとどこからか返事はくるはず。そのはずだ。

 だがどれだけ名を呼んでも返事がくることはなかった。

 夜の色が絶望を染め上げていく。

 坂口も蛙子もいなくなった。俺のせいだ。

 俺がふたりを巻き込んだせいで……

 いや、坂口はそもそも関係者だ。巻き込んだわけではない。……本当にそういえるのか?

 関係者だったし、むしろ研究者としてこの町にかかわっていたかもしれない。だがわざわざ危険を冒してまで町内に足を踏み入れることがあっただろうか。

 やはり俺がかかわったせいだ。そのせいで坂口は死ななくてもよかったのに死んだ。

 両間の方便だということは考えられないか? ふたりとも生きていて、俺をけしかけるために――

 そこまで考えてやめた。やつにメリットがない。本人が言っていた通り、冗談をいう性格ではないようにも思う。

 ならば蛙子も死んだのだろうか。馬鹿な。俺はあいつにまだなにも言ってやれていないのに。

「蛙子……」

 無意識に声が小さくなっている。心が折れそうになっていた。

 これまでこんなことはなかった。これほど、絶望に囚われ心が折れそうになったことは。

 このまま心が折れてしまうと、俺は一体どうなってしまうのだろうか。

 想像できない。それだけにそうなってしまうことが恐ろしい。

 それは俺にとって死に等しいことだと思った。

 その先が想像できない=死と同じ。

 俺はそれが恐ろしいことなのだと心底思い知らされた。

「あれは……」

 暗い夜道の中でぽつんと光るなにかがあった。

 一瞬、なにか考えたがすぐに思い出した。スーパーだ。

 不自然に一軒だけある、夜に決して近づいてはいけないという魔のスーパー。もっとも弘原海の受け売りではあるが。

 可能性がまだ残っているとすれば、あそこしかない。

 夜はめろん発症者が寝ずの番をしているという狂気の店。一見、存在する意味を疑うがこの町の均衡を保つために必要な施設だと弘原海は言った。実際、効果的に機能しているとも。

 つまり、夜にわざわざあそこにいくことが自殺行為である。この町に住むものならば誰でも知っている事実だ。

「あんなところに入るなんて言ったら、なにがなんでも止められそうだな」

 もしも蛙子がいたら、と思わず考えて笑った。

 まだ、笑えるだけ余裕がある。自分でも気づかなかった。ならばきっとまだ希望はあるはずだ。

 店に入る前に武器になるようなものを探さなければ。

 これまでの『もしかしたらめろん発症者とエンカウントするかもしれない』とは違う、『中には必ずめろん発症者がいる』という状況。備えではなく装備だ。

 だが武器になるようなものがこの町の道に転がっているだろうか。

 普通の街とは違い、互いが互いを監視しあっているような場所だ。両間側の対策も去ることながら、必要以上に危険物はないと考えて然るべきだ。だがしかし、物は考えようだ。きっとなにかあるはず。

 そうは言っても時間はあまりない。なければ丸腰で突入するしかなかった。

 簡単に探したところ、やはりめぼしいものはなく、仕方なく木の枝を折った。なにもないよりマシレベルだ。折った先は尖っているし、突けばひとりくらいは致命傷を負わせられるだろう。

 敵が拳銃などを持っていればお手上げだが、数人程度ならばひとりをひるませることができれば逃げる事件くらいは稼げる。むしろこんな修羅場くらいのほうが断然楽だ。

「よし、行こう」

 

めろん。108へつづく

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