*

陽だまりのカエルと鶏とパンダ








■2019年1月19日 京都




京阪山上駅から地上出口に出ると、鼻先の肉を攫って行くような寒風に目をつむった。




慌てて手で確かめてみると幸い鼻はちゃんと顔についている。




三条大橋の欄干に鎌鼬(かまいたち)が笑っていまいか探してみたがいなかった。







アボカドの角を曲がり、私と同じく鼻の頭を赤くしている男がしきりに今なら生ビールが安いと詠っているのを横目に、雑居ビルのエレベーターに飛び乗った。




7F『イベントスペース パームトーン』








――ここに訪れるのはもう何度目だろうか。




初めてこの場を訪れてからそれほど時間は経っていないように思える。




気のせいだろうか、と記憶を遡ってみるとやはり私が正しい。ほんの2カ月の間に3度目だ。




「こんばんは」




会場にはすでに数人の客がいた。




なごやかな歓談の時間を、私の声が止めてしまったようだ。




「よお」




聞き覚えのある声。




背筋に走る寒気。直後に沸き立つ熱。




この感覚、知っている。私はこの男を知っている。




男はメガネのレンズの奥から、爬虫類のようなぬめりと威嚇するような瞳を覗かせた。




冷酷で残忍な男だと思っていたが、最近は心境に変化があったという。なんでも拾った亀を律儀に飼っているらしい。




にわかには信じがたい話だ。大方、まるまると太らせて喰うつもりなのだろう。すっぽん鍋ならぬ、亀鍋だ。




海亀は喰えると聞くが、……なるほど。この男には常識などは通用しない。




獲物を逃さない“狩る側の目”がそれを物語っているではないか。




【木下昌輝】時代小説作家。それが男の名だ。












「どうも。お久しぶりです……」




木下は私の挨拶に答えず、すぐに隣の席の客と話をしだした。




――眼中にもない、ってことかよ。




下唇の痛みが、自分で噛んだ痛みであることに気づいたのと同時に次々と今宵の客……いや、戦士(デュエリスト)たちが集まり始めた。




■死斗をくぐりぬけてきた益荒男たち




「くくく、やあどうも。最東さん……」




にやり。両端の口角がえぐるように歪む。笑顔を向けられているこちらが凍えそうな、悪魔の笑みだ。彼を前にしてはペニー・ワイズも裸足で逃げ出すに違いない。




【尼野ゆたか】ライトノベル作家。












「…………」




無言のままサングラス越しでもわかる眼光で私を睨みつけているのは、【水沢秋生】。なんでも書くマルチプレイヤーな作家だ。特にショートショートバトル界ではあの木下と激戦を繰り広げ、勝利をもぎ取った。一瞬でも隙を見せると、私の首は床を舐めることになるだろう。








「最東さん、よろしくお願いいたします~」




文字で抜くと陽気な印象だが、その実は全く違う。確かに第一印象では温和で物腰柔らかな男のように見える。だがひとたび酒が入ればたちまち豹変。対戦相手に絡みつき、苦しむ顔で息絶える様を見るのが至高の喜びとする狂人だ。たぶん。松本清張賞をぶん獲った手腕は只者ではない。




【川越宗一】時代小説作家。








「こんばんは。みなさん、あけましておめでとうございます」




そしてこの男――。【今村昌弘】屍人作家。




鮎川哲也賞を受賞し、斬新な設定と仕掛けでミステリー界に激震を走らせた超大型ルーキー。爽やかな風貌に丁寧な物言いの裏に秘めた、残忍な素顔。あとガンダム好き。今夜、この男が起こす惨劇に会場中の注目が集まっている。








「ああ、最東さん。どうも」




今村は私の姿を認めるとにこりと笑った。




背筋が粟立ち、全身の毛穴が開く。




この感覚は間違いない、『戦慄』だ――。




私は恐れている。




彼に対してだけじゃない。この死線をくぐりぬけてきた修羅の者たちに。




そして、今宵行われる地下小説ショートショートバトルに!




※地上7階です。




■そして開戦の狼煙があがる




この先に待つ命の取り合いを前に、会場は和やかな空気に包まれていた。




参戦者たちも緊張した様子はなく、客たちと歓談している。




――なぜ、笑える。なぜ笑って話せる余裕があるんだ!




心の声を悟られまいと、私はカウンターの井上氏に喉を焼き尽くすような強い酒を注文した。




「最東先生、今夜は期待してますよ……」




グラスの底を静かにならし、激烈に強い酒を置く。廃暴廬(ハイボール)というらしい。




この場に呑まれてたまるものかと、一息に飲み下す。




脳みそや内臓が沸騰し、穴という穴から噴き出しそうな熱が全身を駆け巡った。




「ええ、見ていてください。……勝ちますよ、僕は」




井上氏の目が「いいのかいそんな大言壮語を口にして。強い言葉を使うと弱く見えるぞ」と言っている。




「勝ちますよ。絶対」




今度は己に言い聞かすため、一語一語を噛みしめるように言った。




その時だった。




突然、無音になり時が止まった感覚に陥る。




「な、なんだ?!」




思わず口に出た言葉がスピーカーから放出される音に掻き消される。




『ようこそおいでくださいましたみなさま! それでは『「fm GIG ミステリ研究会」第3回定例会 ショートショートバトル』を開催いたします!』




Fm.gigの代表であり、イベントの責任者冴沢鐘己氏がタイトルコールを告げた。








あちこち……いや、私の神経も今研ぎ澄まされているからわかる。5つ……、そう、5つの殺気が放射し、会場中に渦巻いている。




――殺らなければ殺られる……ッ!




長い夜は、はじまったばかりだ。




→後編はこちら




※実際の様子はこちら!↓







※原稿はこちらで読めます!↓




西軍 https://note.mu/palmtone/n/nc60afebeb320




東軍 https://note.mu/palmtone/n/nefa021cbcc41

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